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こんにちわ、とーこです。
Audibleで朝井リョウさんの「正欲」を読みました。
2021年3月初版、第19回 本屋大賞ノミネート、第34回柴田錬三郎賞受賞作の本書は、2023年11月から映画化されている作品でした。
稲垣吾郎さんや新垣結衣さんが出演されています。
私の住んでいる地域では今週末辺りで上演が終了してしまうようで、残念ながら映画館に観に行くことは叶いそうにありません。
早速予告編を見てみたのですが、小説の中にまだ半分浸かっている状態で、この映像は心に堪えます。
「正欲」朝井リョウ
あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。
しかしその繋がりは、”多様性を尊重する時代”にとって、
ひどく不都合なものだった――。
「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」
これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。
Amazon 書籍紹介より
あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。
多様性、ダイバーシティ、マジョリティやマイノリティ、LBGTQといった言葉そのものは、珍しくない。
では、その中身について、私たちはどの程度の広さと深さと奥行きで、実態を把握し、理解することができているんだろうか?と問いかけずにはいられません。
知らないことは人を傷つけるナイフになる
「特殊な性的嗜好」を持った場合の生きづらさは私がこれまで触れてきたことのない、見たことも聞いたこともない世界で、まさにこれは「知らない世界」だった。
私は知らなかった。
世の中のあらゆる事象に対して、様々な角度から、それそのものが性的嗜好の対象になることを知らなかったし、その人たちがどんな感情や生きづらさを抱えて生きているかを知る機会がなかった。
私のように、多くの人はそんな世界があることに出会うことがないし、出会わなければ気づく事すらないと思う。
知らない事実があるという時点で、議題を話し合う時の「前提」がまず揃っていないことが大きな問題だと感じた。
男は女が好き、女は男が好き、という一般的な欲望以外は「異常」であり、「排除すべき」「異端」なものだという認識を前提にしてしまえば、当然その枠の中に納まらないものは全て取り払う対象になってしまう。
知っているのと、知らないのではこうも大きく話は変わってくるんだと思う。
読了してからまた冒頭を読む
小説の冒頭に「ある事件」の概要とその事件関係者への取材の記事が挙げられている。
最初にこの記事を読んだ時、容疑者になっている人たちのことを「犯罪を犯した人たち」として認識したし、文面のままにしか理解することができなかった。
終盤に向けて、彼らがどんな感情から、どんな風に行動を起こして、その日に向かって突き進んでいったかを体感するよう物語は進んでいく。
夏生と佳道がせっかく築き上げた小さな繋がりの網は、あっという間に崩れてしまうことが予告されていて、この過程は読んでいて大変辛く、切なかった。
その人が持つ価値観や性的嗜好によって、世の見え方はこうも異なるのか!と驚くと同時に、当たり前を突き付けるのもある意味当然な感覚もあって混乱してしまう。
新しい見え方が加わった状態で、もう一度冒頭を読むと、また捉え方が異なって、うーん、とまた唸ってしまった。うーん。
法律で定められていることを破ったらいけないのはルールだから、守らないといけないと思う。
壊したり、盗んだりしたら当然ダメだと思うし、例えば我が子が他人に上半身裸の写真を取られたら親としては嫌な気持ちになるし、場合によったらどこかに通報したくなる状況だと思う。
それはそれ、これはこれ、と線で区切ることができなくて、グラデーションのように何となく色が変わっている様がある。
犯罪だと定義しているのは、彼らが小児性愛者だと定義づけたからであって、彼らはただ「水」の写真を撮影していただけなのに、佳道たちがしたことって犯罪だったんだろうか?
社会の一員かどうかジャッジされている
私は社会の最少単位を形成する家族を持ったマジョリティに属していて、子どもが二人いる。
どこにでもいる、普通の私ですら、生きている中で「どうしてこうも生きづらいのだ?」と思うことはやっぱりあった。
特に成人して、社会人となり、いわゆる結婚適齢期になった頃は、周囲の人たちの大好物である「彼氏はいるのか」「結婚するのか」「子どもはできたか」「二人目はまだか」というフルコースを味わった。
放っておいてください、勝手に生きていきますから、と心の中で100万回はつぶやいたと記憶している。
社会は放っておいてくれない、異端や異常を排除するために、放ってはおけないのである。
二人目を産んだら、彼らの関心はピタッと止んだ。
社会の一員として、きちんと生きていますよ、というメッセージとして、夫婦となり、子どもを設けることはこれまでの破壊力があるということを自覚した。
自分と異なるもの、異物、異端者、理解できないものは社会の中に入れないようにしよう、という無意識の圧力を、小説の中だけではなく、自分のすぐそこにあるのだと気づいてゾッとする。
「正欲」を読む
朝井リョウさんの「正欲」の感想でした!
私はAudibleでこの作品を聴いたのですが、夏生の部分は語り口も岡山弁でした。
大学のころに実習をしたのが岡山だったので、イントネーションになつかしさを感じながら聴いています。
映画では広島が舞台になっているようですね、映像で観るとまた圧倒されるんだろうなと思います。
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